借家を明け渡すことによって受け取る立退料の性質は、おおむね(1)立退きのための費用の弁償 (2)借家権の消滅の対価 (3)事業者の場合の営業補償とに区分することができますが、通常はこれらの性質の2以上が混在することが多く、所得計算に当たっては、その実質に従って立退料の金額を区分しなければならない場合が生じます。

仮に、これらの区分が形式、内容とも明確になったとした場合は、(1)については一時所得、(2)については譲渡所得、(3)については事業所得となりそれぞれ定められた計算方法によって所得金額を計算すればよいことになります(所令95、基通33-6、34-1(7))。

ところで、この区分の方法について、所得税基本通達では、立退料の全額から(2)に相当する金額および(3)に相当する金額を控除した残額をもって(1)に相当する金額とし、これを一時所得として課税対象とする考え方が示されています(基通33-6、34-1(7))。

立退料の金額のうち借家権の対価に相当する金額がどうしても明らかに区分できない場合には、実務上、立退料の全額から、立ち退くために実際に要した費用を控除した残額を借家権の対価とする方法を採ることもやむを得ないものと考えられます。

しかし、借家権については、借家権の取引慣行がある地域においてはその立退料のうち借家権の消滅の対価に該当する金額は譲渡所得に該当しますが、借家権の取引慣行がない地域においては、その金額は一時所得に該当することとなります。

なお、借家権の対価に係る譲渡所得は、土地建物などの譲渡に該当しませんから、総合課税の長期譲渡所得(所有期間5年以下の場合は短期譲渡所得とされます。)として計算することになります。

総合課税の長期譲渡所得は、総収入金額から取得費、譲渡費用を差し引いた残金(譲渡益)に、更に特別控除(50万円または譲渡益のいずれか少ない方の金額)を控除して算出します。また、他の所得と総合するときは、この金額に2分の1を乗じて総所得金額を計算すればよいこととなっていますが、短期譲渡所得の場合には、この2分の1控除は認められません(所法33 3.〜 5.、22 2.二)。